銀座ライオンといえば、ビアホールとして国内屈指の知名度を誇る(たぶん)。ホームページを見ると、「銀座ライオン」は東京を中心に全国に28店舗ある。ほかにカウンター席と小皿料理を充実させた「銀座ライオンLEO」は5店舗。サッポロビールの旗艦店だけあって、黒ラベルやヱビスなどできたての生ビールを飲める店としてビール愛好家に親しまれている。
その中で最も歴史のあるのが「ビヤホールライオン銀座七丁目店」だ。というか、国内で現存する最古のビアホールである。
「ビヤホールライオン銀座七丁目店」のサイトによると、アサヒビールの前身である大阪麦酒、恵比寿ビールを製造していた日本麦酒、サッポロビールの前身である札幌麦酒が合併してできた大日本麦酒(株)の本社ビル1階に、1934(昭和9)年4月8日に開店したのがビヤホールライオン銀座七丁目店だった。「天下一の建物に。後世まで残る日本を代表するビヤホールに」という思いが込められた内装は、<当時としては贅をつくし、工夫を凝らした造りとなっており、建築家を含め多くの人から絶大な賞賛を集めました。>とサイトにある。「豊穣(ほうじょう)と収穫」をコンセプトに大麦やブドウをモチーフとした装飾が施され、中でも目を引くのが店の一番奥にあるガラスモザイクを使った大壁画。大麦を収穫する婦人たちが描かれ、その大きさは縦2・75メートル、横5・75メートルもある。
ライオン銀座七丁目店に行こうと思ったのは、昨年夏に読んだアンソロジー「午後三時にビールを 酒場作品集」(中央公論新社編)の表紙絵が、画家の山高登さんの描いたライオン銀座七丁目店の店内(その名も「ビヤホール」)だったことがまずひとつ。続いて、今年1月に銀座の「はち巻岡田」で食事をした際、2軒目はどこに行こうかと友人と話していたときに銀座ライオンはどうかと提案したこと。アンソロジーに収録されている吉田健一「海坊主」の舞台が「はち巻岡田」であることからライオン銀座七丁目店が喚起されたようだ。結局、その日はライオンへ行かなかったが、サイトを開くと「1階ビヤホールライオン 銀座七丁目店では、現在新規のご予約受付を停止しております。誠に恐れ入りますが、直接のご来店をお願いいたします」とあった。予約制のままだと予約客だけで満杯になるほど人気なのだろう。なぜこれほどの人気なのかと調べると、銀座の歴史を伝える歴史的建造物として2022年2月17日付で、国の登録有形文化財(建造物)に登録されており、今年(2024年)で創建90周年を迎えるという。納得した。
そもそも僕は過去にライオン銀座七丁目店で飲んだことがあるのか? 銀座にあるライオンで飲んだ記憶はあるが、そこが七丁目店だったかは定かでない。少なくとも国の登録有形文化財になってから飲みに行ったことはない。だったら、クラフトビールはないけど行ってみる価値はあると思った次第。僕が休みの平日はどうかとクラフトビール好きの友人を誘うと、午後4時には仕事を終えて店に行けるという。平日のその時刻なら満杯は考えられず席を待つこともないだろう。彼を相棒(ビール飲みに付き合ってくれる人を僕はこう呼んでいる)にして銀座七丁目店へ行くことに決めた。